2019/08/26

教育政策のエビデンスに関する報告会を聴講しました。

西野 宏

メトリクスワークコンサルタンツの伊芸(いげい)です。

これが初めてのブログの投稿になります。今後硬軟織りまぜながら当ブログの更新に携わりたいと考えていますので、末永くお付き合いくださいますようよろしくお願いいたします。

今回は、8月23日(金)に尼崎市学びと育ち研究所の第2回報告会「エビデンスに基づいた教育政策を目指して」を聴講しましたので、その感想をご報告します。

尼崎市学びと育ち研究所は市が設置した研究所ということでとても珍しく 、また大阪大学の大竹文雄先生が所長を務めるなど第一線級の研究者が関わっており、とても先進的な取り組みと言えるのではないでしょうか。

今回の報告会では、まず大竹先生の基調講演があり、その後各研究員から研究の概要や分析結果、今後予定されている研究の背景などが報告されました。報告内容はさることながら、特に興味深かったのは各研究で学力や非認知能力、発達状況、出生時の体重などさまざまな行政データが活用されていることでした。

報告会の最後の研究員によるパネルディスカッションでは、行政データの利点として、調査費用がかからない、正確、規模が大きい、中立、経年でデータが取れるといった利点が挙げられました[1]。ただ、これらはあくまで分析上の、つまり研究者にとっての利点であって、提供する側の自治体に利点がないと行政データの活用は進みません。その点尼崎市は、報告会のタイトルにあるように、提供したデータから得られた分析結果を施策に活かすというまさにEBPM的発想でデータを提供している「よう」です。(報告会の冒頭に尼崎市長の挨拶があり、そこでこのような話があったかもしれませんが、5分ほど遅刻してしまい残念ながら聞けませんでした(涙))

そして、分析を進め結果を出しながら、今回のような一般向けの報告会で研究内容や海外のエビデンスを分かりやすく紹介する研究者の方々も素晴らしく、行政と研究者の良いコラボレーションができているなと感じました。

学力や発達といった研究テーマに加えて、行政データの活用やEBPMの実践といった点からも、尼崎市学びと育ち研究所の取り組みにはこれからも要注目です。


[1] 一方、行政データの欠点についても大竹先生が話されていましたが、行政データはそのまま分析に使用することはできず、通常原データを分析用に加工したり、他のソースからのデータと結合したりするのにかなりの労力が要ります。この点は今後行政データを整備するうえでの課題と言えるでしょう。

  1. 西畑 宏治 より:

    私も聞きに行きたかったです!
    尼崎市は,昨年度子供・子育てに関する施策を担当していた際に知り,注目してきました。
    行政と研究者のコラボレーションを促進するの仕組みづくりに悩むこともありますが,尼崎市のように,行政機関の中に,社会科学を研究する部署をきちんと設置することが一つの解ではないかと考えています。
    自然科学の研究機関は自治体でも多いかと思うのですが,社会科学分野の研究部署(自治体シンクタンク)は少ないのではと思います。
    EBPMという流れが出ている中にあって,社会科学分野の研究部署を持っている自治体が,職員の育成や研究者との連携をさらに進め,存在感を発揮してくるのではないかと考えています。

    • 伊芸 研吾 より:

      早速のコメントありがとうございます!
      行政データをオープンにして研究者に使ってもらうという連携の仕方もありますが、自治体の中に研究部署を作って連携すると、仰る通り職員の育成につながるでしょうし、またその自治体のための研究をやってもらいやすくなるのではないかと思います。
      エビデンスの外的妥当性の問題を考えると、自分たちのデータを使って得られたエビデンスの方が信頼できると思うので、ぜひ自治体の皆様にはうまく研究者やコンサルタント(弊社のような!)を活用していただきたいです。

      • 西畑 宏治 より:

        そうですね。エビデンスの外的妥当性の問題の観点からも、ですね。
        研究者やコンサルタントの活用できればいいのでしょうが、昔からなかなか上手くできてないのが行政なのかなと思います。活用の仕方がわからない、というのもありますが、一緒に仕事する相手のことがわからず、ベストな相手を選べない、ということもあるのかなと思います。研究者の研究内容とかコンサルティング会社の強みだとかを冷静に見て、自分たちのやりたいことに引き合わせることをできる人が必要かなと思います、

        • 伊芸 研吾 より:

          なるほど、そのような課題があるのですね。たしかにこれまできちんと施策の効果検証を行う経験や効果検証に関する知識がなかった状況で、適切な相手を見つけるのは難しいと思います。EBPMに関する研修や尼崎市のようなグッドプラクティスを積み重ねつつ、引き合わせる人が現れれば、研究者との良い連携が増えていくのでしょうね。

          • 西畑 宏治 より:

            返信ありがとうございます。
            効果検証に関してもですし、個別の政策分野に関しても、ですかね。
            組織に根付かせるというのはなかなか難しいと思うのですが、おっしゃるとおり、EBPMに関する研修やグッドプラクティスの積み重ねをまずは進めることが重要だろうなと思いました。

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